第二回 【前編】資本主義の主役をお金から人へ〜考える消費が社会を変える〜

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Road to IX
〜 就労困難者ゼロの未来へ 〜

シニフィアン株式会社共同代表 多摩大学大学院客員教授 村上 誠典氏

VALT JAPANはNEXT HEROを通じて、日本発のインクルーシブな雇用を実現する社会インフラ作りに挑戦しています。その理想実現のため、様々なセクターの皆様と就労困難者ゼロの未来実現に向けて議論を積み重ねていきたく、対談を連載しております。 第二回にご登場いただくのは、シニフィアン株式会社共同代表で、「未来世代に引き継ぐ産業創出」を目指し、社会価値創造に尽力されている村上 誠典さんです。

ゲスト 村上 誠典氏

シニフィアン株式会社共同代表 多摩大学大学院客員教授

兵庫県出身。東京大学にて小型衛星開発、衛星の自律制御・軌道工学に関わる。同大学院に進学後、宇宙科学研究所(現JAXA)にて「はやぶさ」「イカロス」等の基礎研究を担当。ゴールドマン・サックスに入社後、同東京・ロンドンの投資銀行部門にて長年、資本市場、コーポレートファイナンス、M&Aの専門家としてグローバル企業の経営上の転換点に数多く関わる。 シニフィアン創業後は「未来世代に引き継ぐ産業創出」を目指し、スタートアップや若い世代と協働しながら、社会価値創造に尽力。ポストIPOスタートアップを提唱し、持続的かつ長期的に成長を持続することで社会課題の解決を通じた企業価値創出を目指す。SHIFT/SmartHRなどスタートアップを代表する企業の社外取締役を兼任。創業した国内初グロースキャピタルを通じて数多くの有望スタートアップのリード投資を実施。取締役、株主、アドバイザーとしてスタートアップに深く伴走。政府等のワーキングループへの参画を通じて、スタートアップ・エコシステムの発展にも注力。著書に『サステナブル資本主義 5%の「考える消費」が社会を変える』がある。

インタビュアー 小野 貴也

VALT JAPAN株式会社 代表取締役CEO

目次

小野 貴也
(以下、小野)

村上さんは元々東大・JAXAで宇宙工学の研究をされて、そこからゴールドマン・サックスにキャリアチェンジされ、さらにシニフィアン株式会社を創業されてと、とてもユニークなキャリアでいらっしゃると感じますが、どうしてそのような道を歩まれたのでしょうか。

マイノリティーであることが武器になった

村上 誠典氏
(以下、村上)

私はこれまでのキャリアを通して、ずっとマイノリティー的な価値観の中で生きてきました。大学時代も地方出身者で東京に馴染むのが大変でしたし、海外赴任時も職場で日本人は一人という環境で働いていました。ゴールドマンでも金融の素人として挑戦しましたし、スタートアップに来た時も「ゴールドマンから来たようだぞ」みたいな。常に知り合いゼロ、似たようなバックグランドの人が少ない異邦人のような存在からスタートすることが多かったように思います。

ただ自分の実体験としては皆さんからするとチグハグに見えるキャリアも、僕の中では全くブレておらず、ずっと同じような価値観で生きているということ。それは、「今一番何をやると社会インパクトが大きいのか」「未来のために頑張れているか」という軸です。

宇宙分野も当時は下火でしたが、新しいフロンティアとして誰もやっていない挑戦ができるフィールドとして、未来に不可欠な挑戦として、魅力と意義を感じていました。
金融ビッグバンの後、これから日本が変わっていくっていうタイミングでテクノロジー×ゴールドマンのソリューションが、かなりインパクトがあるなと思ったり。スタートアップについても、その機動力、エンジンがなければ日本の復活はないし、新しい産業もできない。社会問題も解決しないよねという中で、そのダイナミズムに身を置くことにしました。常に社会と未来を意識して行動してきたように思います。そして、そこに集まる優秀で魅力的な人も好きでした。
私としてはいつも長期的な視点を持って動いているんです。そして、私の中でのミッションはほとんど変わっていない。ただ生かす強みとか、やっていることっていうのが変わっているだけなので、結果的に常に最初は異端児状態から始まります。ただ、これは大きなメリットもあって、同じような能力を持っている人の中で同じ競争ルールで勝負する必要がないんです。

もし100mのオリンピックの決勝に出て戦うとなるとしんどいでしょう。だって、勝つためにはウサインボルトより速く走るしかない。でも全然違うスキルを持っているところに行くと、価値の出し方が多様になります。

例えば、当時ゴールドマンにいた方は、MBAをとった金融出身の人や帰国子女、他弁護士などプロフェッショナル人材が殆どでした。そこに私のような宇宙業界のバックグラウンドを持った異なる価値観とスキルを持った人材は、最初こそ知識不足がデメリットであって、そこさえキャッチアップすれば、ファイナンスとか分析力、テクノロジーに対する理解力など、他にない付加価値を提供することで、総合的なクライアントへの価値を高めることが可能になります。

このことは一見不利に思える海外勤務の際も同じで、自分だからこそ経験している価値があるわけです。他の人と同じ土俵で戦うとすごくしんどいんだけども、自分ならではのスキルでやると結果的にすごく価値が出せて、最終的にはコミュニティの中心的キャリアを体現できる。どうすれば他にない価値を提供できるのか、無意識のうちに考えることができているのかもしれません。

これって別に私が適応したわけじゃなく、私自身は何も変わってないんです。ただその価値をしっかり提供しようとする。それが本質的であればあるほど勝手に世の中が巻き込まれていく。この成功体験を子どもの頃からずっといろんな経験を通じて感じてきたのかなと思います。

「考える消費」が社会を変える?「サステナブル資本主義」とは

小野

村上さんの著書『サステナブル資本主義 5%の「考える消費」が社会を変える』を拝読して、衝撃的な価値観と世界観に溢れていて本当に勉強になりました。サステナブル資本主義について、ぜひ記事をご覧の皆さんにも知ってもらいたく、少しご説明いただけますか?

村上

岸田首相の唱える新しい資本主義より前に書いてるんですが、どういう風に社会システムをアップデートするかという意味で、今の資本主義と違う何かというのを僕なりに表現した本です。僕は一般的な人からすると、資本主義の権化が金儲けの本でも書いてるんじゃないのかみたいに思われがちですけど、実際は全然違っていて、資本主義の良さと、これからのチャレンジしていくべきことを、資本主義の中心にいたからこそ、スタートアップの現場にいるからこそ見える視点で書こうと思ったんです。

先程のマイノリティの話ではないですが、僕は宇宙にしろ、ゴールドマンにしろ、すごくニッチなことをずっとやっています。ニッチとは専門的にやっている絶対数が少ないという意味です。

さらに今スタートアップ向けのファンドも創業し運営していますが、ファンドのGP(General Partner)をやっている人なんて日本に数百人とかしかいない。だから僕がやっていることは全て一億人の人口における数百人しかやっていない仕事とも言えます。故に外からは大きな誤解が生じやすく、一方で中にいいてこそ見えるのもののギャップはありますが、今の社会課題の内外、資本主義の内外、またスタートアップの良さ悪さ。全て両面あるんですよね。それらを掛け算した時に自分だけに見えている世界があるんじゃないかっていうことが1つ。あともう1つは、スタートアップに関われば関わるほど可能性とチャレンジ、両方をものすごく感じています。

どういうことかというと、本当に社会課題を解決しようと思ったら、スタートアップのエンジンを上手く回すことが必要であり、その要となるのは、お金ではなく人、人が中心となり、大きなミッションとそれに対する共感にこそあると思ったからです。

現資本主義の問題点はパラメーター

村上

僕は資本主義の仕組み自体はこれからも活用できる点が多く、それなりにうまく設計できていると思うんです。ただ、問題なのはそのパラメータです。元々資本主義が生まれた背景に遡ると、投資家たちのお金を増やすための仕組みでした。

公式としては悪くないんだけど、分配の仕方が偏っているんです。現状、最初に分配がいくのは株主、つまり「投資家」です。それが「起業家」が増えてきた際に、リスクを取っている分、分配しようという動きが出ました。それもわかります。でも僕は、もう一段、二段踏み込むべきだと思うんです。もう一段というのは「働く人」です。働く人への分配をもっと増やさなきゃいけない。かつそれを通じて「消費する人」への分配も増やさなきゃいけない。搾取にあってきたのは、人であり地球環境だと思うんです。

なぜかというと、自分が貧しかったからだと思うんですけが、良いこととか、人の役に立つこととか、優しい人ってどこか余裕がある人なんです。それは精神的か経済的、あるいは両方かってありますけど、余裕がある人は、他人に目配りできる、社会に目配りできるんです。ただ豊かさがないとそうならない。なので社会課題が解決し、価値が回っている状態とは、結局大多数の個人がハッピーじゃないと成立しない。99%の人は不幸だけど1%の人がハッピーという状況では絶対に解決しない。そうすると分配の問題だよねと思ったんです。ではどうやったら99%の人が共感者となり得るのかというと、まず経済的、精神的に豊かになることなんです。これは鶏と卵の話じゃない。

ただ、一気にそれを実現するのは難しく、じわじわとそうなっていくのだと思います。
著書ではサブタイトルに“5%の考える消費”と書いていますが、全員である必要はありません。ある一定の割合の人がそうなってくれれば、それは必ず伝播していく。僕が説いているのは、この仕組みの中で最初にやらなきゃいけないことは、個人、従業員への分配です。今の政治的にいうと賃金上昇の話に近いですが、なんなら賃金じゃなくてもいい。とにかく金銭、非金銭なんでもよく、そこで働く人に対するリターンとして、その人が経済的、精神的に豊かな状態を作る器として機能すれば、資本主義のルール自体を大きく変えなくても結果が大きく変わってきます。そして労働者が豊かになると消費が豊かになるんです。

さらに、消費が豊かになると今度は“考える消費”というのをみんながし始めます。そうすると、今まではお金を儲けるために、儲ける仕組みを作って、そこにお金を送り流動させるという資本主義の仕組みではなく、ボトムアップになっていく。つまり個人が経済を動かしていくのです。僕が間違いなくそうなると思っているのは、今の人的資本の流れを見たりとか共感経済とか色々なことが出ていますけど、もっと大局観に立つと、トップダウン型からボトムアップ型に変わるということだと思っているんです。
そしてこれはスタートアップの在り方ととても相性がいいと思っています。

リンゴはすでに落ち始めている

小野

まさに一人ひとりの豊かさというのは、経済的な指標で言うと一人当たりGDPなどがありますが、まさに今、村上さんがおっしゃっていることってGDPだけでは差し測れない、非財務的な部分なども、しっかりと今後注目していく必要があると感じました。

村上

もちろん一人当たりGDPも増やしていかなきゃいけないですが、非財務や非金銭の指標で一番大事なのはベクトルを揃えることだと思っています。というのも、金銭報酬に偏っていた報酬体系ではベクトルがずれることがままあるんです。例えば、一生懸命営業でモノを売ったら、歩合で給料は上がる。でもこの商品って売ったほうがいいの?いまいちじゃない?詐欺みたいじゃない?と思ってたとしても、頑張って売れば金銭報酬が増えて経済的に豊かになるかもしれない。これだとダメですよね。だから自分がやっていることと社会に対する還元とか、いろんなもののベクトルが揃えられるかっていうのがすごく大事なんです。

一番理想的な状況は、自分がすごく共感していることを仕事にし、それを頑張ることによって自分にフィードバックがあり、社会にフィードバックがあり、それがさらに自分の報酬になり、社会が良くなればなるほど自分の報酬が増える。経済的にも精神的にも豊かになる。つまり自分が理想としている社会になればなるほど、自分がより豊かになるっていうこのベクトルを揃えられるかどうかが大事なんです。残念ながら、ほとんどの働く方がそこに対する若干のズレを感じているんです。これもスタートアップとすごく相性が良いと思っていて、スタートアップが一番成功するポイントはインセンティブアライメント、つまり利害関係をいかに揃えるか、ベクトルを合わせられるかというのを丁寧にやる会社がすごく伸びるんです。つまりユーザーも、働いている人も、経営者も、みんなハッピー、そんな会社が伸びるんです。
スタートアップが成功する方程式と、僕が言っていることは近いので、スタートアップ的な経営の思想がどんどん増えていくほど、個人と社会が利害の合意をした状態というのは作れるんです。

僕はこういった変化のプロセスは連続的に起こることだと思っていて、じわじわと重力はそっちに行っていると感じています。ニュートンの法則でいうリンゴを落とすと下に落ちるということを確信しているんです。変数はどれだけ早く落ちるかだけなんです。ここが地球なのか、火星なのか、月なのか、重力の違いだけなんです。絶対下に落ちるんですよ。僕が生きてるうちに下まで落ちるのか、僕が生きてるうちに落ちないのか、分からないですけど、確実に重力が下に向いてる、それは確信しています。

対談の後編では、

  • 真のフェアとは何か
  • OSを変えなければ人は育たない
  • VALT JAPANの社会的インパクト

について語ります。


当対談は音声でもお楽しみいただけます。下記のSpotifyよりご視聴ください。