第一回 【後編】自立協働社会の実現と日本版インクルーシブモデル

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Road to IX
〜 就労困難者ゼロの未来へ 〜

コクヨ株式会社 CSV本部・サステナビリティ推進室理事 井田 幸男氏

VALT JAPANはNEXT HEROを通じて、日本発のインクルーシブな雇用を実現する社会インフラ作りに挑戦しています。その理想実現のため、様々なセクターの皆様と就労困難者ゼロの未来実現に向けて議論を積み重ねていきたく、この連載対談を始動しました。 記念すべき第一回にご登場いただくのは、コクヨ株式会社CSV本部・サステナビリティ推進室理事の井田幸男さんです。

ゲスト 井田 幸男氏

コクヨ株式会社 CSV本部・サステナビリティ推進室理事

人事、提案営業、マーケティング、全社構造改革の業務を経て、2021年より現職の室長に就任。 長期ビジョン『be Unique.』の実現に向け、サステナブル経営と新たな組織能力の推進に取り組み中。昨年、ダイバーシティ&インクルージョン&イノベーションを掲げ、商品開発プロセスにインクルーシブデザインを取り入れ、事業やサービスを通じた障がいの社会システム向上に向けた全社活動を立ち上げる。 仕事に向き合うコンセプトは「WORK HAPPY」。

インタビュアー 小野 貴也

VALT JAPAN株式会社 代表取締役CEO

目次

「労働人口減少問題」と「障害者雇用」

小野

今後労働人口が減少していく中で、オフィスの空間や環境など大きく変化していくと思いますが、コクヨさんの長期ビジョンとはどのような形で関連していきそうですか。

井田

先ほど、僕たちの長期ビジョンを実現するためのマテリアリティにチェンジをしたという話をしましたが、その最初の1丁目1番地に、Well-being向上を掲げています。女性活躍や労働生産性をあげるなど、従業員のWell-beingや働き方の幸福度合いを上げることに加えて、それを社内で成し遂げたプロセスの方がより多くの方の世の中にお役に立つはずだと考えています。
なので、最終的には「ダイバーシティー&インクルージョン&イノベーション(D&I&I)」までつなげることで、初めて僕たちのWell-beingを実現したと言えるようにしました。
また、労働力人口の話でいうと、やはり大きく変化すると思います。労働人口の概念そのものについて大きく捉えると、現在日本の労働力人口はこの1年で5万人から6万人減っています。内訳を見ると男性が22万人減って女性が16万人増えているようです。これは何を表しているのかなと考えてみました。これはつまり、今まで男性偏重だった働くとか雇用というのが、女性が活躍するのが当たり前になってきて、そのプロセスにおいて前出の数字になってきたのだと思います。
そういう性別のことも一つありますし、もう一つ、多くの方が65歳以上も元気で働きたいと思っていても、日本の統計のいわゆる労働力人口が64歳で終わっているという点があります。
そのような背景がある中で、従来の労働人口の考え方で5万人減っているねといっていいのか。新たな働き手が必要なので、働き手として障がいをお持ちの方たちに働く場をというのはすごく正しいですが、もう少し広く捉えたときに、労働とは何で、なぜ一部の人に働く機会が現状の社会システムとして与えられないのか。社会システムの何を変えていけば、みんな一人ひとりが生き生きと働き、自己成長できるか、というところに、議論できる点はたくさんあるような気がします。

日本版インクルーシブモデルを作りたい。インクルーシブ雇用2.0

小野

大阪本社オフィスには先日伺わせていただきましたが、インクルーシブデザインのアウトプットを自分の肌で触れられて感動しました。企業活動や事業活動の一部に自分が貢献できているという体感を強く感じられる機会はあまりないと思うので、素晴らしいですね。

このインクルーシブデザインの考え方と取り組み方ですが、我々としてもNEXT HEROを通じて、インクルーシブモデルをどんどん広めていきたいなと思っています。今までは法定雇用率という絶対的な法制度が中心にあって、その上で企業が障がいのある方々と一緒に仕事をする考え方や仕組みが中心でしたけれども、そこを基盤としながら「インクルーシブ雇用2.0」という考え方を持っています。
これは、法定雇用率があろうがなかろうが、何%だろうが、障害者手帳の有無に関係なく、その方が戦力になるのであれば、企業の事業活動やサプライチェーンに積極的に取り込んでいく。そして一緒に仕事をして新しい価値を日本社会に作っていこうと。そういうインクルーシブな社会を僕らは作っていきたいと思っています。

井田さんのお立場から見て、このインクルーシブモデル、インクルーシブ社会について、どういう未来が見えていますか。

井田

小野さんのお話や書籍を読んで感じたのは、日本は障害者手帳や法定雇用率という定義があって、特定できるものをしっかりやりすぎているということです。大事なのはそこではないんですよね。
僕もこういうお仕事をするようになった時に最初に言われていたのは、「視力いくつですか?」って聞かれて「0.1です。」って言った時に、「メガネがなければあなたも普通に仕事できなかったかもしれませんね。」と。まさしくそういうことかなと思いました。
何らか個性の中で今の当たり前の社会システムの中ではやりにくいもの、それを変えていくことによって誰もが生き生きと輝ける。でも、手帳を持っている人と括ってしまうと、その人を雇用すると他の人に対して不都合なことが起きる場合があるので、もう少し広く捉えた中で、全員で共に考えていくべきですよね。
僕もよく使ってしまいますが、健常者と障がい者のような区別そのものがおかしい世界になってくるといいですね。

ちなみに、インクルーシブ雇用2.0について、実現に向けて大事なのはこのポイントだ!というのはありますか。

小野

私たちは大きく4つポイントがあると思っています。1つは、まず障害者手帳の有無という制限を取り払うことです。そしてもう1つが企業や社会側、就労困難者を戦力に取り込み、一緒に仕事をしていくことによって、社会とか企業にきちんと合理的なインセンティブがしっかり支払われるような社会設計ができることですね。

井田

なるほど。インセンティブの設計は難しいですけど、必要ですよね。

小野

そうですね。3つ目が、就労困難者の領域は、まだまだ経済セクター側の人材の流動性が非常に低いです。例えば、井田さんを初め、ビジネスの世界でバリバリと活躍してきた方々が就労支援や福祉のセクターに対して、流動してきづらい構造になっています。これは投資家資本も同様です。こうした人的も含めた資本というのが、もっともっと就労困難者セクターに流動していく、そんな仕組みも設計していかなきゃいけないと感じています。

さらに続けさせてもらうと、4つ目が雇用関係の有無の超越です。
法定雇用率というのは障害者雇用、つまり雇用契約を結んで初めてカウントされる仕組みです。ですが世の中、雇用関係が絶対ではないですよね。現代は多様な働き方があって、複数の会社で働く方もいれば、時短やリモートで働く人もいます。精神障害者20時間以下でもカウントされるようになりましたが、雇用じゃなく、例えば業務委託や制作物の調達などを選択したい障がいを持ったワーカーさんもいるんです。ただ今の日本では雇用関係がないとこうした協働モデルを評価できない。

井田

今おっしゃった4つは全部絡み合っていますから、どこからボタンを押していけばいいのか、すごく難しいですね。ただ今回の2.0のように、まずビジョンを示されたことで、多くの人がいろんなボタンの押し方を小野さんに言ってくるでしょうね。その中でいろいろ見つかっていくのかもしれませんね。

小野

本当にそうだと思います。
本連載のタイトル、Road to IXのIXですが、インクルーシブトランスフォーメーションの略なんです。我々のように、就労困難者が大活躍していくというビジョンだけではなく、井田さんがおっしゃったように就労困難かどうかに関わらず、全ての人の自己実現を支援していける取り組みが、まさにこのIXを進めていく上で重要な論的だと感じました。

井田さん、最後にIX、インクルーシブトランスフォーメーションについて、メッセージをいただけたら嬉しいです。

井田

やはり、きちんと障がい者や福祉の現場に足を置かれて、多くの現場の経験も踏まえた上で、未来に対する大きなビジョンを示されたというのは本当に感服しますし、そのビジョンの目指すべき姿というのも非常に包摂性の高い、優しい匂いのする感じを受けます。せねばならぬという鋭利な刃物ではなく、みんなが笑顔で未来をつくるというビジョンで、温かみをすごく感じています。

その裏に透けて見えるのは、僕は社会システムに寄った話をしましたけれど、ベースにあるのは個人を見て、その人たちの生きがいや働きがいを見つけていくことによって、社会を良くしていくことです。その思いがすごく溢れていました。実現には大きな障害があるのも事実ですが、我々は我々の立場、VALTさんはVALTさんの立場、そしてある時はぜひ協力をしながら、いい社会を作っていければなと思います。

小野

とても嬉しいお言葉をたくさんありがとうございます。
井田さん、本日は本当にありがとうございました。


当対談は音声でもお楽しみいただけます。下記のSpotifyよりご視聴ください。